ここまでの記事では、書くことについて三つの流れを見てきました。
- 頭の中にある情報を紙へ出す
- 書いた言葉から、今の感情を見分ける
- 気づいたことの中から、次に取りかかることを一つ選ぶ
前の記事では、気づいたことがそのまま行動につながるとは限らない、という話もしました。
では、ここまで紹介してきたジャーナリングは、誰にでも同じように役立つのでしょうか。
研究を見ても、「書けば必ず変わる」とは言えません。一定の効果を示す結果がある一方で、平均すると効果が小さい場合があり、研究によって結果にもばらつきがあります。何を書くか、その人がどのような状態かによっては、書いた直後につらさが強くなることもあります。
今回は新しい書き方を増やすのではなく、シリーズの最後に、ジャーナリングへ期待できることと、言い切れないことを整理します。
まず、日常のジャーナリングと「表現的筆記」を分けて考える
ジャーナリングという言葉は、かなり広く使われています。
その日の予定を書くことも、頭に浮かんだことを自由に書くことも、感謝したことを記録することも、ジャーナリングと呼ばれる場合があります。
一方、研究でよく扱われる「表現的筆記」は、つらい出来事やストレスの強い経験について、考えや感情を一定時間、複数回に分けて書く方法です。
私が朝に「その時頭にあること」を自由に書く朝ノートと、研究で決められた条件のもとで行う表現的筆記は同じではありません。
表現的筆記の研究結果を、そのまま「毎朝ノートを書けば同じ効果がある」と広げることはできません。研究を読むときは、何について、誰が、どのような方法で書いたのかを分けて見る必要があります。
研究から、一定の効果が示されている部分はある
複数の研究結果をまとめる「メタ分析」や「系統的レビュー」では、書く介入に一定の効果が報告されています。系統的レビューとは、複数の研究を一定の基準で集めて整理する方法です。メタ分析とは、一つの実験だけでなく、条件の近い複数の研究をまとめて全体の傾向を見る方法です。
2023年のメタ分析では、健康な人や症状が比較的軽い人を対象にした31件の研究、合計4,012人の結果がまとめられました。表現的筆記には、抑うつ、不安、ストレスの症状を減らす方向の効果が見られました。ただし、全体としては小さな効果でした。
また、2022年の系統的レビューとメタ分析では、PTSD、不安、抑うつなどを対象にした20件のランダム化比較試験(参加者をランダムに複数のグループへ分けて効果を比べる研究方法)が検討されています。小さい、または中程度の利益を示す結果があった一方、研究ごとの違いが大きく、方法上の弱点もあるため、効果の大きさをはっきり決めることは難しいとされています。
ここから慎重に言えるのは、書く方法が一部の人に役立つ可能性がある、というところまでです。
「科学的に効果が証明されたから、誰でも書けばよくなる」とは言えません。
平均で小さな効果があっても、一人ひとりの結果は同じではない
研究でいう「平均の効果」は、参加した全員に同じ変化があった、という意味ではありません。
変化が見られた人もいれば、ほとんど変わらなかった人もいる。研究によって対象者、書く内容、回数、比べる相手、結果を確認する時期も違います。それらをまとめた先に、全体としての平均があります。
実際、健康な成人を対象に、ストレスの強い出来事について20分間、4回書いてもらった研究では、不安、抑うつ症状、身体症状について、書いたグループ全体の明確な改善は見られませんでした。
その研究では、もともと感情を表現しやすいかどうかによって、不安の変化が異なる可能性も示されています。ただし、これは一つの研究です。この結果だけで、「感情を表現しにくい人は書かない方がよい」と一般化することもできません。
大切なのは、研究結果を「効く人」と「効かない人」を決める判定表にしないことです。
一定の効果を示す研究があることと、目の前の一人に必ず役立つことは、分けて考える必要があります。
書いた直後につらくなる場合もある
つらい出来事について深く書けば、すぐに気持ちが軽くなるとは限りません。
書くことと健康に関する研究をまとめた1998年の分析では、表現的筆記の直後に、つらさが強まる傾向も報告されました。その場でつらくなったことと、その後の健康上の変化は別の結果として扱われています。
つまり、「書いた直後につらくなったから失敗」とも、「つらくても効果のために続けた方がよい」とも、単純には言えません。
日常のノートでも、同じ出来事を繰り返し思い出し、自分を責める言葉ばかりが強くなることは考えられます。書くほど視野が狭くなり、出来事を見直すより「なぜ自分は駄目なのか」という評価へ戻ってしまうなら、無理に掘り下げない方がよい日もあります。
特に、強い体験を一人で書き続けることを、治療や専門的な支援の代わりにはできません。
書いていて苦しさが強くなる、書いた後も日常へ戻れない、生活への支障が続く。そのような場合は、ノートを閉じて中断し、必要に応じて医療機関や心理支援などの専門家へ相談することも選択肢です。
私が「書けば変わる」と言い切らない理由
私は2026年4月1日から朝活を始め、それまでの5時30分起床を5時へ30分早めました。朝は紙のノートだけにして、その時頭にあることを書いています。
2026年9月5日時点では、朝ノートを書かなかった日は一日もありませんでした。ただ、毎朝前向きだったわけではありません。やる気が出ない日のことも、そのままノートに残しています。
朝ノートが自分には続いている。これは、私自身の記録として言えることです。
一方で、朝はノートだけにしたから続いた、と因果関係までは言えません。書いたから必ず答えが出るわけでも、毎回すぐ行動できるわけでもありません。
まして、自分に続いている方法を、そのまま誰にでも合う方法として勧めることはできません。
続いているという自分の体験と、万人に同じ効果があるという主張は、別のものです。だから私は、ジャーナリングを「書けば変わる方法」ではなく、自分の状態を見て、次の選択を考えるための補助的な方法として扱いたいと思っています。
「効かせる」より、自分の状態を見ながら付き合う
ジャーナリングを続けるために、毎回深い気づきや前向きな結論を出す必要はありません。
日常で使うなら、次のような付き合い方ができます。
- 最初から長く書かず、一行や数分で終える
- 書く前と書いた後で、苦しさが強くなっていないかを見る
- 答えが出ない日は、答えが出ないまま閉じる
- 強い体験を無理に掘り下げない
- 書くほどつらくなる日は中断する
- 水を飲む、立ち上がるなど、書いた後に日常へ戻る行動を一つ置く
これは、効果を高めるための決まりではありません。自分に合っているかを見ながら、無理を増やさないための目安です。
書かない日を選ぶことも、短く終えることもできます。話す方がよい日や、休む方がよい日があっても不思議ではありません。
書くことそのものより、その後の選択を見る
このシリーズでは、書くことを次のように見てきました。
頭の中にあるものを外へ出す。言葉を置いて、自分の状態を少し見やすくする。そこから、動かしたいものがあれば、次に取りかかることを一つ選ぶ。
どの段階でも、必ず答えが出るわけではありません。書いたら行動しなければならないわけでもありません。
書くことそのものが、人を自動的に変えるのではないと思います。
書くことで今の状態が少し見え、その後の選択が変わることがある。その小さな積み重ねが、結果として変化につながる可能性がある。
私がこのシリーズで伝えたかったのは、そのくらいの、静かで限定された変化です。
まずは一行だけ書いてみる。合わなければ閉じる。少し見えたものがあれば、次を考える。
ジャーナリングは万能ではありません。だからこそ、自分に合う距離で使える補助的な方法の一つとして、無理なく付き合っていけるのだと思います。
ここまでは、「なぜ書くのか」を研究と仕組みから考えてきました。理解したことを7日間で実際に試す実践編「朝30分で頭と副業を整える、7日間ジャーナリング実践ガイド」を準備しています。
参考文献
- Sohal M, Singh P, Dhillon BS, Gill HS. “Efficacy of journaling in the management of mental illness: a systematic review and meta-analysis.” Family Medicine and Community Health. 2022;10(1):e001154. https://doi.org/10.1136/fmch-2021-001154
- Guo L. “The delayed, durable effect of expressive writing on depression, anxiety and stress: A meta-analytic review of studies with long-term follow-ups.” British Journal of Clinical Psychology. 2023;62(1):272–297. https://doi.org/10.1111/bjc.12408
- Niles AN, Haltom KE, Mulvenna CM, Lieberman MD, Stanton AL. “Effects of Expressive Writing on Psychological and Physical Health: The Moderating Role of Emotional Expressivity.” Anxiety, Stress, & Coping. 2014;27(1):1–19. https://doi.org/10.1080/10615806.2013.802308
- Smyth JM. “Written Emotional Expression: Effect Sizes, Outcome Types, and Moderating Variables.” Journal of Consulting and Clinical Psychology. 1998;66(1):174–184. https://doi.org/10.1037/0022-006X.66.1.174
この記事のnote版は、ジャーナリングは誰にでも同じように役立つのか——研究から見えた効果と限界です。

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